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山形地方裁判所 昭和25年(行)10号 判決

原告 島津六朗兵衛 外三名

被告 山形県知事

主文

山形県農地委員会が別紙第二物件目録記載の各土地についてなした昭和二十五年六月二十九日の訴願棄却の裁決中、同目録進行番号15の土地に関する部分は、これを取消す。

原告等の請求中、別紙第一物件目録掲記の各土地に関する部分及び第二物件目録中進行番号1乃至14 17 18 25乃至32の各土地に関する部分は、いずれも却下する。

原告等のその余の請求は棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は、「山形県農地委員会が、別紙第一物件目録記載の土地について昭和二十四年五月二十八日、第二ないし第四目録記載の土地について昭和二十五年六月二十九日、原告等の訴願に対してなした各裁決は、いずれもこれを取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、

一、訴外二井宿村農地委員会は、自作農創設特別措置法(以下単に「自創法」と略称する。)に基き、原告等所有の別紙

第一物件目録記載の土地を対象として昭和二十四年二月二十一日第十回の、

第二物件目録記載の土地を対象として同年六月十六日第十一回の、

第三物件目録記載の土地を対象として同年九月十四日第十二回の、

第四物件目録記載の土地を対象として同二十五年一月二十七日第十三回の

各買収計画を樹立し、

第十回計画は昭和二十四年二月二十一日から同年三月二日まで、

第十一回計画は同年六月十七日から同月二十六日まで、

第十二回計画は同年九月十四日から同月二十三日まで、

第十三回計画は昭和二十五年二月二日から同月十三日まで、

それぞれその公告をして縦覧に供した。が、原告等は、右の買収計画がいずれも不服であつたから、

第十回計画については昭和二十四年三月二日

第十一回計画については昭和二十四年六月二十六日

第十二回計画については昭和二十四年九月二十三日

第十三回計画については昭和二十五年二月十三日

二井宿村農地委員会に対して各異議の申立をなして該買収計画の取消を求めたが、同委員会は、

第十回計画に対する分は昭和二十四年三月九日

第十一回計画に対する分は昭和二十四年六月三十日

第十二回計画に対する分は昭和二十四年九月二十七日

第十三回計画に対する分は昭和二十五年二月十五日

いずれも右の申立を容れない旨の決定をなしたので、原告等は、更に、山形県農地委員会に対し、

第十回計画に関しては昭和二十四年三月十八日

第十一回計画に関しては昭和二十四年七月十一日

第十二回計画に関しては昭和二十四年十月七日

第十三回計画に関しては昭和二十五年二月二十六日

それぞれ訴願をなしたけれども、山形県農地委員会は、右の各訴願に対し、

第十回計画に関する分については昭和二十四年五月二十八日

第十一回乃至第十三回計画に関する分については、いずれも昭和二十五年六月二十九日これを棄却する旨の裁決をなし、その裁決書は、いずれも昭和二十五年七月十五日原告等に送達された。

二、然し乍ら、二井宿村農地委員会は、その樹立した買収計画を、前述の通り、

第十回計画は昭和二十四年二月二十一日より同年三月二日まで、

第十一回計画は昭和二十四年六月十七日より同月二十六日まで、

第十二回計画は昭和二十四年九月十四日から同月二十三日まで、

いずれも九日間(初日を算入しない。)の縦覧に供しただけで、法定の十日間の縦覧期間を置いていないし、原告郷太は原告六朗兵衛の同居の親族であつたが、原告六朗兵衛並びに原告郷太の保有自作地の実測面積が、約三町歩で公簿上の面積通りに存しないのに公簿上の面積によつて計算し、法定保有面積四町四反歩の制限を超える分があるとして買収計画を樹立したり、或いは施設買収で非適格者の申込により、又は申込がないのに、買収計画を樹てたり、或いは又、買収適条の区別なく、農地・施設・未墾地等を一括して買収計画を樹てたりしたもので、各筆に対する原告等の主張は別紙第一乃至第四物件目録請求原因欄掲記の通りである。

三、以上のように、二井宿村農地委員会の樹立した第十回乃至第十三回買収計画は、いずれも違法なものであり、従つて、この違法な買収計画を支持して原告等の訴願を排斥した本件各裁決も、違法なもので取消を免れないから、本訴請求に及んだ次第である。

と陳述し、被告の主張に対し、

第十回乃至第十三回の各買収計画が登記簿上の所有名義人を相手方としたこと、その相手方は、被告が別紙各物件目録において所有者であると主張する者であることは認める。

と述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は、本案前の主張として、「原告等の請求中別紙第一物件目録記載の土地に対する二井宿村農地委員会の第十回の農地買収計画に関する訴願の裁決の取消を求むる部分、別紙第二乃至第四物件目録記載の土地に関する原告島津郷太の請求部分、別紙第二乃至第四物件目録記載の土地中異議・訴願又は訴願のない土地に関する原告郷太を除くその余の原告等の請求部分は、いずれも却下する。」旨の判決を求め、その理由として、

一、別紙第一物件目録記載の土地に関する二井宿村農地委員会の第十回買収計画についての原告等の訴願に対しては、昭和二十四年五月二十八日これを棄却する旨の裁決があり、その裁決書は、同年六月二十日原告等に送達されたものである(原告等主張の様に昭和二十五年七月十五日ではない。)から、昭和二十五年八月十一日に提起された本件訴は、右第十回計画に関する限り法定の出訴期間を徒過していることが明らかであり、不適法として却下を免れない。従つて、この部分に関する原告等のその余の主張に対しては答弁する必要を見ない。

二、原告郷太は、全然異議・訴願をなしておらないから、別紙第二乃至第四物件目録記載の土地に関する請求中、原告郷太の請求部分は不適法として却下せらるべきものである。

三、右(一)、(二)以外に、原告郷太を除く他の原告等も異議・訴願又は訴願をしていない物件があり(別紙物件目録の各筆において陳述)、この部分に関する訴も又不適法として却下せらるべきものである。

と述べ、本案については、原告等の請求中、右訴の却下を求める以外の部分については「請求を棄却する。」旨の判決を求め、答弁として、

一、本件買収計画樹立の日は、原告等主張のとおりで、いずれも登記簿上の所有名義人を買収計画の相手方としたものであり、右登記名義人が、本件買収計画樹立当時の実際上の所有者でもあつた。その所有者名は別紙物件目録で各筆毎に述べる。

二、別紙第二乃至第四物件目録中、被告において、原告等の異議・訴願又は訴願がないと主張する土地以外の土地に対する第十乃至第十三回買収計画に関する公告の日・縦覧期間・異議申立の日・異議却下の日・異議却下の内容・訴願の日・訴願裁決の日・裁決の内容・訴願裁決書交付の日は、第十一回計画及び第十三回計画公告の日及び第十回計画に関する分の訴願裁決書交付の日を除き、原告主張の通りであることを認める。第十回計画に関する分の訴願裁決書交付の日は、前述の通り昭和二十四年六月二十日であり、第十一回計画公告の日は同月十六日、第十三回計画公告の日は昭和二十五年一月三十一日であり、第十一回、第十二回計画はいずれも十日間の縦覧に供してあつて、何等違法な点はない。

三、原告郷太が原告六朗兵衛の同居の親族であることは認めるが、二井宿村農地委員会が、買収適条の区別なく、農地・施設・未墾地を一括して買収したという原告等の主張は否認する。公簿面で農地でない物件もあつたが、現況は全て農地であつたので農地として買収したものであり、唯第十一回買収計画で採草地を買収したことはあるが未墾地を買収したことはない。その他各物件に対する被告の主張は、別紙第一乃至第四物件目録中答弁欄記載の通りであり、被告の主張に反する原告その余の主張は全部争う。

と陳述した。(立証省略)

理由

一、別紙物件目録記載の土地について(ただし異議の申立、訴願がないと被告において主張するものを除く)、訴外二井宿村農地委員会が買収計画を樹立してから、山形県農地委員会が原告等に対し訴願裁決書を送達する迄の経過に関しては、左記の点について当事者間に争がなく、又右買収計画は、いずれも右土地の登記簿上の所有名義人を相手方としたものであり、その所有名義人は、別紙物件目録答弁欄において、被告が実際上の所有者であると主張するものであることも当事者間に争がない。

第一物件目録記載の土地を対象として樹立した第十回買収計画

第二物件目録記載の土地を対象として樹立した第十一回買収計画

第三物件目録記載の土地を対象として樹立した第十二回買収計画

第四物件目録記載の土地を対象として樹立した第十三回買収計画

二井宿村農地委員会が買収計画を樹立した日

年 月 日

昭和二四、二、二一

年 月 日

昭和二四、六、一六

年 月 日

昭和二四、九、一四

年 月 日

昭和二五、一、二七

買収計画を公告した日

二四、二、二一

二四、九、一四

右縦覧期間

自二四、二、二一

至二四、三、二

至二四、六、二六

自二四、九、一四

至二四、九、二三

至二五、二、一三

原告等が右委員会に対し異議の申立をした日

二四、三、二

二四、六、二六

二四、九、二三

二五、二、一三

異議却下の日

二四、三、九

二四、六、三〇

二四、九、二七

二五、二、一五

原告等が山形県農地委員会に対し訴願した日

二四、三、一八

二四、七、一一

二四、一〇、七

二五、二、二六

訴願棄却の日

二四、五、二八

二五、六、二九

二五、六、二九

二五、六、二九

訴願裁決書が原告等に送達された日

二五、七、一五

二五、七、一五

二五、七、一五

(欄内に記入のない部分は争のある処である)

二、被告は本訴請求中第十回買収計画に関する分は出訴期間経過後に提起されたものであると主張するので按ずるに、成立に争のない乙第八号証及び乙第二十一号証の二によれば、第十回計画に関する分の訴願裁決書は、昭和二十四年六月二十日原告六朗兵衛において受領していることが認められるところ、本件訴は、昭和二十五年八月十一日に提起されたもので、第十回の買収計画に関する分の訴願裁決の取消を求むる限りにおいては、法定の出訴期間を経過していることが明らかであるから、その余の点について判断するまでもなく、第十回計画に関する分の訴願裁決の取消を求むる部分は、不適法として却下すべきものである。

三、被告は別紙第二乃至第四物件目録記載の土地に関する原告島津郷太の請求部分及び同目録記載の土地中被告主張のものについては異議・訴願を経ていないと主張するので、この点について審按する。

(一)  第十二回買収計画について、

原告郷太の所有であることにつき当事者間に争いのない別紙第三物件目録記載の土地を対象とする右買収計画について、原告郷太が異議・訴願をなしたことを認め得る証拠はない、しかしながら原告郷太が原告六朗兵衛の同居の親族であることは当事者間に争がなく、成立に争のない乙第十三号証、第二十四号証によると、右土地については、原告六朗兵衛において適法に異議・訴願をなしていることを認めることができ、そして本訴は、二井宿村農地委員会の買収計画が、原告六朗兵衛並びに原告郷太の保有地面積を侵害する違法がある旨をも主張しているものであつてみれば、原告郷太は、自ら異議・訴願をしていなくとも、同居の親族たる原告六朗兵衛のなした該異議・訴願の効果を受けて、右土地に関する限り、第十二回買収計画についての訴願の裁決の取消を求むるにつき法律上正当な利益を有するものというべきである。

(二)  第十三回買収計画について、

成立に争のない乙第十五号証、甲第五号証の五、乙第十六号証、乙第二十五号証によれば、第十三回買収計画については、原告郷太も原告六朗兵衛と両名連記で、二井宿村農地委員会に対して異議の申立をなし、その異議を排斥する決定に対して、更に、山形県農地委員会に訴願がなされ、その訴願書には、訴願人として「島津六朗兵衛〈印〉、外一名〈印〉」と表示されているところからして、原告郷太も、原告六朗兵衛と共に訴願をしているものと見るのが相当であり、原告郷太が第十三回計画についての訴願裁決の取消を求める部分も適法な訴である。

(三)  第十一回買収計画について、

右買収計画の対象となつた別紙第二物件目録中、進行番告1乃至4 6乃至14 17 18 25乃至32の各土地については、原告等が、異議・訴願をなしたと認めるに足る証拠は皆無で、結局、右の各土地については異議・訴願がなされなかつたことが認められ、そうであるとすれば、右の各土地に関する限り、原告等の本訴請求は不適法たるを免れない。又、同目録進行番号5の物件については、成立に争のない乙第十一、十二号証、甲第三号証の五及び七、乙第二十三号証によれば、原告六朗兵衛において、該物件の現況は畑でなくて田であるから、田として買収計画を立てるべきであるとの異議の申立をなしたこと、これに対し、二井宿村農地委員会はその異議申立通り地目をあらためたこと、この為、原告等は、右物件については敢て訴願をしなかつたことが認め得るところであつて、該物件についての訴願裁決の取消を求むる部分に関しては本訴請求はその前提を欠き、これ又不適法である。従つて、第十一回買収計画に関する別紙第二物件目録中、進行番号1乃至14 17 18 25乃至32の各物件についての原告等の請求は、その他の争点について判断するまでもなく、不適法として却下すべきこととなる。

四、原告等は本件買収計画は、九日間これを縦覧に供したに過ぎないから、違法であると主張するので按ずるに、成立に争のない甲第三号証の二、乙第三号証、甲第五号証の二によれば、第十一回買収計画の公告日は昭和二十四年六月十六日、第十三回買収計画のそれは昭和二十五年二月二日であることが認められるところ、縦覧期間については、昭和二十二年農林省告示第二十五号により、初日を算入しないことになつておるから、前示縦覧期間の最終日と照合して計算してみると、第十回、第十二回買収計画の縦覧期間は、九日間しか存せず、法定の十日間に満たないことになる。しかしながら本件買収計画については、原告等は前示のように縦覧期間内に適法な異議の申立をなし、それが受理されておるのであるから、かようなものから縦覧期間が一日足りなかつたというようなことを事由にして買収計画を攻撃することの許容せらるべきでないことはいうまでもないことである。

五、以上の外、各物件に関する当裁判所の判断は、別紙各物件目録の判断欄掲記の通りである。

叙上の理由により、原告等の本訴々求中、別紙第二物件目録記載の物件についての第十一回買収計画に関してした原告六朗兵衛等の訴願に対してされた裁決は、同目録進行番号15の物件に関する限り、これを取消すべきものとして認容し、別紙第一物件目録記載の物件全部及び第二物件目録中の進行番号1乃至14 17 18 25乃至32の各物件に関する原告等の請求は、いずれも不適法としてこれを却下すべく、その余の物件に関する原告等の請求は、全部失当として棄却すべきであるから訴訟費用の点について民事訴訟法第九十二条を適用して、主文の通り判決する。

(裁判官 藤本久 阿部哲太郎 吉永順作)

(別紙省略)

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